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【 COLUMN 】マリネッラ創業100年、そして次の100年
――20世紀イタリアの文化と社会とともに――
第九回「1980~89年:イタリアファッションが世界ナンバーワンに躍り出る」

2023-12-3MARUNOUCHI TOKYO MIDTOWN

 

2024年6月に創業110年を迎えるマリネッラ。
メンズファッションエディター矢部克已氏による年代別のコラムを、記念すべき周年に向けてお届けいたします。

 

20世紀にスポットを当てた年代別のコラムは、イタリアの文化・風俗・ファッション・映画・芸術などの歴史を通し、トピック的な政治経済史を挿みながら、この100年の「マリネッラ」の存在を位置づけるものです。
「マリネッラ」の代表的な商品となる、ネクタイの伝統的な魅力や、巧みなものづくりを掘り下げるために準備した、イタリアとナポリの歴史哲学的な視座を踏まえています。

 

1980年の初っ端に、テロによる大規模な爆破事件が勃発し、この十年も深い霧に包まれると思われた。しかし、80年代半ばになると、各産業が戦略的に発展しはじめる。「イタリア経済第二の奇跡」と呼ばれる経済成長である。エミリア・ロマーニャ、トスカーナ、マルケ州などの「第三のイタリア」地域からつくられる、付加価値の高いクルマや職人的な技巧を凝らした服飾・皮革製品が抜きんでる。ファッション、インテリア、プロダクト、クルマが注目されるなか、特に、ファッションとインテリアは、ミラノを中心に、才気あふれるデザイナーの活躍によって、優れたデザインが生まれ、豊かなライフスタイルを現実化する。
1980年、映画『アメリカンジゴロ』公開。主役を務めた俳優、リチャード・ギアが“ジョルジオ アルマーニ”の衣装を纏う。これを機に、アルマーニは世界的な名声を得る。同年、記号学者で作家のウンベルト・エーコが『薔薇の名前』を上梓。さらに1980年は、フィアット社から初代『パンダ』が誕生。『500』以来の、大衆車のヒットとなった。「自分の最高傑作だ」とデザイナーのジョルジェット・ジウジアーロは述べた。シルヴィオ・ベルルスコーニ所有のテレビ局「カナーレ5」の放送開始も1980年だった。
1981年、エットーレ・ソットサスを中心に、デザイン集団「メンフィス」を結成。ヴィヴィッドな色彩とメキシコ、インド美術から着想を得たアヴァンギャルドな作品群で、時代を刻む。同年、ノーベル賞受賞詩人のエウジェニオ・モンターレ死去。子供の頃、オペラ歌手を志していたモンターレは、晩年、音楽評論も新聞に寄せていた。享年84。
ワールドカップ・スペイン大会でイタリアが優勝したのは1982年だった。
1983年、アレッシ社は、工房「オフィチーナ・アレッシ」を設立。ポップな形体のティーポットやコーヒーカップなど、ポストモダンデザインが生活空間を彩る。
1984年、物理学者カルロ・ルッビアがノーベル物理学賞受賞。
映画『マッケローニ』が上映されたのが1985年。主演のマルチェロ・マストロヤンニが、相手役のジャック・レモンとの旧交を温めるため、こんなセリフがあった。「ナポリの名店、“マリネッラ”で一緒にネクタイのスミズーラを楽しみにしていた」と。同年、作家イタロ・カルヴィーノ死去。享年61。パルチザンにも参加し、幻想的な文学で健筆をふるった。ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナのふたりで築いた“ドルチェ&ガッバーナ”がデビューしたのも1985年だ。メンズ・コレクションはその5年後に発表。
1986年、クラシコイタリア協会設立。初代会長は、ステファノ・リッチ。“ブリオーニ”“キートン”“ステファノ リッチ”など、16ブランドが集結した。手仕事を大事にしたブランドがそろい、後に日本で「クラシコイタリア」は、大ブレイクした。
1987年、SSCナポリが初めてセリエAを制覇する。ディエゴ・マラドーナが得点王に輝く。ナポリの街が歓喜に沸いた。
1988年、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』公開。カンヌ国際映画祭審査員グランプリ、アカデミー外国語映画賞などを受賞。
1989年、ジャンフランコ・フェレが“クリスチャン・ディオール”のクリエイティブディレクターに就任。レディースのオートクチュール、プレタポルテ、アクセサリーを担当した。
デザイナーズブームが吹き荒れた一方で、ミラノでは「パニナリ」というカジュアルなスタイルが若い世代に人気となった。サンバビラ広場に面したバーガーショップ「バーギー」周辺にたむろし、イタリアやアメリカのブランドをミックスして重ね着する。“ストーンアイランド”や“ショット”などのアウターは、欠かせないアイテムとなった。
“マリネッラ”にとって最も成長した時代が、1980年代だ。“マリネッラ”を支え、世界有数のブランドに育て上げたのが、政界の要人たち。とりわけ、7期にわたりイタリア首相に就任したジュリオ・アンドレオッティや、元イタリア首相のベッティーノ・クラクシらは、顧客中の顧客であり、“マリネッラ”のネクタイの信奉者であった。

 

Photos by Mimmo and Francesco Jodice for E.Marinella – “Napoli e Napoli” book

Twitter ID : @katsumiyabe

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※マリネッラのネクタイは公式オンラインストアFLOENS TOKYOでもご購入いただけます。

⇒FLOENS TOKYO|E.MARINELLA商品一覧

 

 

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