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【 COLUMN 】マリネッラ創業100年、そして次の100年
――20世紀イタリアの文化と社会とともに――
第十回「1990~99年:ナポリサミットが影響、“マリネッラ”絶頂期」

2024-1-20MARUNOUCHI TOKYO MIDTOWN

 

2024年6月に創業110年を迎えるマリネッラ。
メンズファッションエディター矢部克已氏による年代別のコラムを、記念すべき周年に向けてお届けいたします。

 

20世紀にスポットを当てた年代別のコラムは、イタリアの文化・風俗・ファッション・映画・芸術などの歴史を通し、トピック的な政治経済史を挿みながら、この100年の「マリネッラ」の存在を位置づけるものです。
「マリネッラ」の代表的な商品となる、ネクタイの伝統的な魅力や、巧みなものづくりを掘り下げるために準備した、イタリアとナポリの歴史哲学的な視座を踏まえています。

 

ワールドカップ・イタリア大会によって、国民の大きな関心が一時的にサッカーに集まるが、赤字財政の削減は喫緊の課題であった。
とりわけ、ミラノは政界に汚職がまん延し、タンジェント―ポリ(汚職都市)と呼ばれ、国民総意で汚職を一掃する機運が高まった。ファッションの分野は、“アルマーニ”“ヴェルサーチェ”“フェレ”をはじめ、“プラダ”や“グッチ”が続々と世界主要都市で旗艦店をオープン、リニューアルし、拡大の傾向が続いた。
1990年、SSCナポリが1987年に続き、2度目のセリエAを制覇。同年6月、ワールドカップ・イタリア大会が開催される。大会事務局長を務めたのは、あのルカ・ディ・モンテゼーモロ。
1992年、法学者でもあるジュリアーノ・アマート首相による5党連立内閣継続。既成政党に属さない経済の専門家を主体とした「テクノクラート政権」が、抜本的な経済と政治の改革を担う。公共企業の民営化のはじまりを告げたが、厳しい緊縮策が反発をまねき、政権は短命に終わった。
1993年、イタリアの100年を振り返り、インテリジェンス溢れる歴代のエレガントな男たちを紹介した、『LA REGOLA ESTROSA』発刊。現代に語られるメンズクラシックの分岐点となり、ファッション書籍の画期的な一冊。“グッチ”が生まれ変わったのも、1993年。クリエイティブディレクターにトム・フォードが就任し、経営を舵取りしたのはドメニコ・デ・ソーレ。ブランドの売り上げは、その後10年で10倍以上にまで拡大した。
1994年、フォルツァ・イタリアの党首を務めるシルヴィオ・ベルルスコーニの、中道右派内閣誕生。同年7月に、ナポリサミット(G7)が開かれ、各国首脳への贈答品のひとつが、“マリネッラ”のネクタイだった。映画『イル・ポスティーノ』の公開も1994年。南の島の絶景を舞台に、ナポリ出身の俳優マッモ・トロイージが郵便配達人を演じる。詩人役のフィリップ・ノワレとの温かい交流があり、郵便配達人は憧れる女性に詩的な告白をする。同年、“プラダ”がメンズ・コレクションを発表。テーラードスーツを監修・製作したのは、ナポリの“アットリーニ”。ハリウッドスターのジョン・マルコヴィッチを広告キャンペーンに起用し、モノクロームの写真に静謐感が漂う。
1995年、アレッサンドロ・マリネッラ生まれる。“マリネッラ”4代目の誕生だ。
F1ドライバーのミハエル・シューマッハが、ベネトンからフェラーリに移籍したのは、1996年だった。
1997年、ロベルト・ベニーニ監督の『ラ・ヴィータ・エ・ベッラ』公開。英語タイトルの『ライフ・イズ・ビューティフル』が定着し日本でもヒット。ナチス強制収容所に送られる3人の家族をユーモアと愛情たっぷりに描く。カンヌ国際映画祭で審査員特別賞。米国アカデミー賞では、主演男優賞を含む、3部門を制覇。同年、劇作家のダリオ・フォがノーベル文学賞受賞した。
ミラノのサルトリア“ジャンニ・カンパーニャ”が、“ドメニコ・カラチェニ”の商標を買収したのは、1998年。クラシコイタリア・ブームに拍車をかけた、記憶に残る買収劇。同年、スキンヘッドに口ひげを蓄えた風貌から「走る哲学者」と呼ばれたマルコ・パンターニが、2大グランツール「ジロ・ディタリア」と「ツール・ド・フランス」で総合優勝を果たす。ロードレーサー界の伝説的な英雄となる。
1999年、紆余曲折はあったが、イタリアは欧州共通通貨のユーロを導入した。
1990年代は、各国紳士からも注目が集まる“マリネッラ”のいわば絶頂期。政界の顧客では、シルヴィオ・ベルルスコーニが圧倒的だった。贈り物用で、なんとひと月に300~400本のネクタイやスカーフを注文。ナポリサミットが開催され、各国トップの襟元に視点が集まり、名実ともに“マリネッラ”が世界に知られる機会となる。いまも語り継がれる“マリネッラ”の歴史的なビッグニュースは、当店発祥の地、ナポリが舞台だったのだ。

 

Photos by Mimmo and Francesco Jodice for E.Marinella – “Napoli e Napoli” book

Twitter ID : @katsumiyabe

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※マリネッラのネクタイは公式オンラインストアFLOENS TOKYOでもご購入いただけます。

⇒FLOENS TOKYO|E.MARINELLA商品一覧

 

 

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