BLOGブログ

【 COLUMN 】マリネッラ創業100年、そして次の100年
――20世紀イタリアの文化と社会とともに――
第十三回 2020~24年:「“マリネッラ”創業110周年。世界を『結ぶ』その先に」

2024-6-23MARUNOUCHI TOKYO MIDTOWN

2024年6月に創業110年を迎えたマリネッラ。
メンズファッションエディター矢部克已氏による年代別のコラムを、記念すべき周年にあわせてお届けいたします。

 

20世紀にスポットを当てた年代別のコラムは、イタリアの文化・風俗・ファッション・映画・芸術などの歴史を通し、トピック的な政治経済史を挿みながら、この110年の「マリネッラ」の存在を位置づけるものです。
「マリネッラ」の代表的な商品となる、ネクタイの伝統的な魅力や、巧みなものづくりを掘り下げるために準備した、イタリアとナポリの歴史哲学的な視座も踏まえています。

 

2020年に入ってすぐ、新型コロナウィルスが感染しはじめ、たちまちパンデミックをもたらした。同年6月のピッティ・ウォモは開催中止。ミラノ・ファッションウィークは、かろうじてバーチャルで開催されたが、デザイナーたちはコロナ禍で立ち上がった。ジョルジオ・アルマーニを筆頭に、多くのデザイナーは、「度重なるコレクションの回数を減らしたらどうか」と声明を出した。“グッチ”のアレッサンドロ・ミケーレは、「2021年秋冬」というコレクションを、音楽的なネーミングに替えるアイディアを語った。実現していれば、コレクションが発表された時期が明言されないため、過去のものが単純に「古くなること」を避けられたかもしれない。ファッションをはじめ、クリエイティブ全般において、潮目の変化を予感させる2020年代の幕開けである。
2020年、政治哲学者ジョルジョ・アガンベンは、『Il Manifesto』のウェブサイトで、コロナ禍におけるイタリア政府の対策を批判するエッセイを著した。「パンデミックの発展」と題したエッセイは、世界的な議論を呼び起こす。同年、SSCナポリに在籍し、セリアAの優勝に貢献した超人的サッカー選手「サント・マラドーナ」こと、ディエゴ・マラドーナが死去。享年60。
2021年、ジョルジョ・パリ―ジがノーベル物理学賞を共同受賞。中世最大の詩人、ダンテ・アリギエーリ生誕700周年を祝う、大規模な記念展がフィレンツェで開催されたのも2021年。また同年、2018年に崩落したリグーリア州の重要な橋が、サン・ジョルジョ橋と名称を変えて再建。欧州の物流をも支える巨大な橋は、建築家レンツォ・ピアノによる設計である。
2022年、“マリネッラ”110年の歴史を伝える映画『La vetrina che guarda il mare』を制作。同年、“グッチ”は創業100周年となる。
2023年、アントニオ・ネグリ死去。『<帝国>』『マルチチュード』などの著作で、既存の政治や経済、社会に対して、新しい概念を突きつけ国をまたいだ論争にも広がった。現代イタリアの政治哲学を牽引した人物。享年90。同年、長年テレビ司会者を務め、ジャーナリストでもあったマウリツィオ・コスタンツォも亡くなった。とりわけ『マウリツィオ・コスタンツォ・ショー』は、イタリア人ならだれもが愛した、国民的な番組だった。享年84。2023年は、北イタリアのトリノにも出店を果たした“マリネッラ”。2フロアのクラシックモダンなインテリアで、総床面積60平米ほど。
2024年、全豪オープンで22歳のヤニック・シナ―が優勝。テニス4大メジャートーナメント・男子シングルスでイタリア人が優勝したのは、48年振り。同年、イタリア屈指のインダストリアルデザイナー、マルチェロ・ガンディーニ死去。享年85。27歳で、自動車デザインの最高峰“ベルトーネ”に参加。ランボルギーニ『カウンタック』『ミウラ』、ランチア『ストラトス』をデザイン。世界に名を轟かすスーパーカーをデザインし、一時代を築いた。
イタリアの知性と文化を創造した傑人が次々と鬼籍に入り、才気あふれる新しい世代が活躍する。1900年代から綴りはじめたこの連載の、およそ120年を振り返れば、とびっきり愛着のあるひとたちが思い浮かぶ。それがいわばイタリアらしさである。
2020年代は現在、4年の経過でしかないが、新型コロナウィルスのパンデミックは、すべてのジャンルに、あまりにも大きな変化を引き起こさせた。“マリネッラ”はこのただなかで、今後成すべきことを再確認する時間にあてた。2024年は創業110周年となる。“マリネッラ”は、足元をみつめ、新たな道も踏み出す。ECサイトの積極的な運営と、エコロジーに繋がる新しい原材料を探求する取り組み。ECサイトでの購買は、アフリカにも広がり世界を網羅する。素材のほうは、オレンジの皮から抽出した「オレンジファイバー」にであった。ネクタイやスカーフ、ポケットチーフなどで、すでに商品化がはじまっている。さらに、ネクタイを包装するビニール袋も再生 プラスチックを取り入れるようになった。2024年6月、プーリア州ボルゴ・エニャツィアで開催されたG7(主要国首脳会議)と時を同じくして、ナポリ対岸のソレントにて、“マリネッラ”創業110周年イベントが盛大に行われた。
創業以来、追求し続けるものづくりの品質。ネクタイを中心に展開する商品と歴史を関連づけ、さらに新たな地平をひらくために、“マリネッラ”は、もう次の100年をしっかりとみつめている。


 

Photos by Mimmo and Francesco Jodice for E.Marinella – “Napoli e Napoli” book

Twitter ID : @katsumiyabe

Instagram ID : @katsumiyabe

 

 

※マリネッラのネクタイは公式オンラインストアFLOENS TOKYOでもご購入いただけます。

⇒FLOENS TOKYO|E.MARINELLA商品一覧

 

 

TAG :

NEWS LETTERSニュースレター

マリネッラよりお知らせをお送りいたします。
ご希望の方は下記よりメールアドレスをご登録ください。